あらざらむ  この世のほかの  思ひ出に  

   いまひとたびの  あふこともがな

                     和泉式部  


<現代語訳>

 間もなく、私の生命は尽きるでしょう。
 だからこそ、その後、
 あの世での思い出にするために
 せめて、もう一度だけでも
 あなたにお逢いしたい・・・。


<解説>

 第五十六番。

 和泉式部は 小式部内侍 (第六十番) の母親。
 歌才もさることながら
 その美貌も誉れが高かったと言います。
 非常に情熱的な女性だったようですね。

 病に倒れて己の死を予感し
 それでもなお、恋しい人への思いを歌った歌。

 辞世の句としては艶がありすぎますが
 生涯を恋に捧げた彼女らしい歌です。

 残された「あなた」は、何を思うのでしょうか。





 死生観、というものがあるとすれば
「私は前世や来世などは信じない」
 これに尽きるでしょうか。

 人が来世のために生きているとしたら
 その人の一生というものに果たして価値はあるのでしょうか。

 前世が存在するとしたら
 そのことに何か意味はあるのでしょうか。

 やり直すことのできない、自分だけの人生だからこそ
 一生懸命に、後悔しないように生きるべきだと
 私はそう信じています。

 同様に「輪廻」という言葉があるとしても
 次の人生に思いを馳せることは無意味です。
 死んだ後のことなど、誰にもわからないのですから。






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