村雨の  露もまだひぬ  まきの葉に  

   霧たちのぼる  秋の夕ぐれ

                     寂蓮法師  


<現代語訳>

 にわか雨が通り過ぎ
 その滴も乾ききってはいない真木の葉に
 早くも谷の方から霧が立ちのぼってきます。

 静かで寂しい、秋の夕暮れです。

<解説>

 第八十七番。
 秋の夕暮れを詠んだ歌。
 第七十番とはまた違った視点で詠まれていて面白いです。
 共通するのは秋の静けさ。

 人里離れた深い山の中、
 にわか雨が降ったかと思うと
 それを覆い隠すように霧が立ちこめてくる。
 そうした自然の、静寂のドラマを読み込んでいます。

 ちなみに、この歌の「まき」は
 マキ科の「槙」ではなく「杉・檜」の総称です。





 淋しさを感じることのできる人は
 淋しくなかった環境を知っている人。

「水の冷たさを知って、自分が暖かいことに気づいた」
 誰の言葉だったろうか・・・。






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