かくとだに  えやはいぶきの  さしも草  

   さしもしらじな  もゆる思ひを

                     藤原実方朝臣  


<現代語訳>

 あなたが恋しい。

 私のこの思い、打ち明けることもできないのですから
 伊吹山の蓬の如くに
 あなたはまったく御存知ないことでしょうね。
 私の中で燃える、この思いを。

<解説>

 第五十一番。
 この歌を初めて読んだときに
 新鮮な驚きを感じたことを覚えています。
 この時代にも「燃える想い」は存在していたのか、と。
 誰かを思う心は、今も昔も変わりありません。

「さしも草」また出てきましたね。
 これは蓬(よもぎ)。
 下の句の「さしも」の序詞、「燃ゆる」の縁語です。

 秘めたる想いは熱く燃えて
 あなたに届くあてもなし。

 この歌、声に出して読むと
 更に味わいの深さが増すとは思いませんか?

 係り結び、掛詞、縁語、序詞、倒置法。
 これらの表現技法が使われている、ということなど
 どうでもいいことですね。





 片思いのつらさ。
 知らない人がいるだろうか。

 伝えたい想い。
 伝えられない想い。
 伝えてはならない想い。

 もしも、そうすることで今の関係が崩れてしまうのならば
 この想いは決して伝えてはならないと
 そう思ったことはないだろうか。

 懐かしき日々の思い出はセピア色の風景の中。





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