立ちわかれ いなばの山の 峰に生ふる
まつとし聞かば 今帰り来む
中納言行平
<現代語訳>
今、あなたと別れて因幡の国に下っても、
その山の峰に生えている松という名のように
あなたが私を「待っている」ということを聞いたなら、
すぐに帰ってきます。絶対に。
<解説>
第十六番。
三十八歳にして因幡の国に単身渡る心境はどのようなものでしょう?
「貴方が待っているのならば、きっと帰ってきます」という言葉の裏には
「任期四年」という事実が冷然と突きつけられています。
「すぐに帰る」ことが不可能であること、
そして、お互いにその事実を理解しているからこそ、
別離の哀しみは胸を焦がします。
「逢わなくても心は繋がってる」なんて嘘です。
ましてや「信じてるから、逢えなくてもいい」なんて大嘘です。
逢いたくて逢いたくて、何を犠牲にしてでも逢いに行きたい。
その情熱が、恋ってもんです。
不可思議
私は「幽霊」とか「心霊体現象とか、
そーゆーのをあまり信じません。
まぁ、あることはあるんだろうけど、
自分とは別の世界で起こってること、といった感じ。
強いて挙げれば中東紛争みたいなものですか。
今回はそんな私が出会った、唯一の「心霊(?)現象」のお話。
学生(M2?)の頃のことです。
時刻は午前1時か2時を廻った頃でしょうか。
いつものように実験で遅くなった帰り道。
気温は暑くもなく、寒くもなく。
何故だか妙に街頭のオレンジ色が鮮明で、
いつもより遠くまで見渡せるような、そんな気がしました。
その時、私の単車はいつものように
左に緩やかにカーブする下り坂を下っていました。
平日の深夜ということもあり、車通りはありません。
と、そこへ、対向車線を上ってくる「白っぽい何か」が見えました。
始めは「原チャか」と思いましたが、
近づいて来るにつれ、その予想が外れていることに気付きます。
向こうの速度は30〜40km/hrくらいでしょうか。
存在を確認して数秒後には、
その「何か」は、何の違和感もなく私とすれ違い、
後方に消えていきました。
その直後、考えました。
「……今のは、何だ………?」
数秒のパニック。
体温が一瞬だけ上がる感覚。
そして、背筋がすーーっと涼しくなっていくのがわかりました。
車やバイクではありえません。
何の音もしませんでした。
ヘッドライト等の光源が存在しませんでした。
人間が走っていた?とも考えましたが、
その「何か」は上下動をすることなしに、
本当に「すーーっと」坂道を上っていました。
ちょうど、スキーでゲレンデを滑り降りる、
そんな感じに一番近かったように思えます。
では、一体あれは何だったのでしょう?
ほんの数秒前に見たというのに、
私はその詳細な姿を憶えていません。
ただ「何か白くてもやっとしたもの」とだけしか。
と言うか、そうとしか、見えませんでした。
理系の性、と言うべきでしょうか、
私は今下って来た道を引き返しました。
それの正体を確認するためです。
が、その後、坂を何往復しても、
その「何か」を再び見ることはありませんでした。
私の通っていた大学は、
すぐ目の前に古墳があったり、
また、ダイダラボッチの伝説が伝わっていたり、と、
所謂「そういった事象」が多少は見られる地域だったようです。
だから、あの晩、私が見た「何か」も、
もしかしたら、そういった「精霊・木霊」みたいな
ものの類だったのかな、と、今更ながらに考えています。
(「怖い」とは思えなかったので「幽霊」は除外)
後にも先にも、私が体験した不可思議な現象はこれだけです。
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