わたの原  八十島かけて  こぎいでぬと  

   人には告げよ  あまのつり舟

                     参議 篁  


<現代語訳>

 広々とした海の遥か彼方、幾多の島に向かって、
 今、私は漕ぎ出したと、あの人にそう伝えて欲しい。
 漁夫の釣舟よ。
 



<解説>

 第十一番。

 詠み人、小野篁は副遣唐使として正使と争い、
 嵯峨天皇の怒りに触れ、37歳で隠岐に流されました。
 その際に詠まれた歌、だそうです。

 都に妻を残して独りで向かう見知らぬ土地。
 それも、自ら望んだものではなく、
 また、いつ帰れるかも定かではありません。

 そんな己の想いを、
 釣り舟に語りかけることでしか表せない境遇は、
 単身赴任のサラリーマンにもどこか通じる風情で
 同情を禁じ得ません。

 その後、2年後には許され、篁は都に戻ることができます。
 良かったね、篁。




 ちょっとした…

 先週から、どうも右耳の調子が悪い。
 水に潜った後のように、音がくぐもる。
 更に、傍にパソコンもないのに、
 常にハードディスクの回転音のようなものまで聞こえる。
 はて、これがいわゆる「耳鳴り」というやつだろうか、と思い、
 念のため、病院へ行ってみた。

 2回の検査後、医師に診断結果を聞く。
 病名は「突発性難聴」。
 耳の機能自体には何の異常も見られず、
 問題はその上流、神経部分にあるらしい。
 原因は不明。
 ストレス性のもの、とも言われているそうだ。

 何の前兆もなく発症する人が多いらしく、
 酷い場合には全く音が聴こえなくなる、んだそうだ。
 その場合、即入院して点滴治療を施さなければならないらしい。

 幸いにして、私の場合は人間の発声域よりも
 高い音域が若干聴こえにくいだけであるため、
 通院&投薬で大丈夫らしい。

 しかし、月の残業時間が
 百時間を楽々越え続けた去年ならいざ知らず、
 ある程度、ゆとりのある仕事内容で、
 土日が完全にフリーになった今になって発症するとは
 どうにも納得のいかない話ではある。

「ストレス性」って、そんなに繊細な人間だとは思わなかった。
 さて、私は一体何にストレスを感じているのでしょう?
 …自分でもわからん(笑)



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