あふことの  たえてしなくは  なかなかに  

   人をも身をも  恨みざらまし

                     中納言朝忠  


<現代語訳>

 もしも、あなたに出会い、こんな関係になっていなかったら、
 あなたをも、自分をも、恨むことはなかったのでしょうに。



<解説>

 第四十四番。

 なまじ逢うことがなければ恨むこともないだろうに、
 たまの逢瀬があるばかりに、
 かえって恋の炎が燃え上がり、
 冷たい相手やつらい我が身への恨みが増してしまう。
 その切ない慕情の表現。

 この場合の「逢う」は古文常識、=深い関係になる、です。





 喪 失 願 望

 いっそ、この意識さえ失ってしまえれば、
 何ひとつ考えることもなく、
 少しは楽になれるかもしれないのに。

 あなたを知ることさえなければ、
 こんなに惨めな思いを抱かずにすんだかもしれないのに。

 僕は脱け殻。
 あなたなしでは何も出来ない木偶の坊。



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