淡路島  かよふ千鳥の  なく声に  

   幾夜ねざめぬ  須磨の関守

                     源 兼昌  


<現代語訳>

 淡路島から千鳥が渡ってきて、
 哀れな鳴き声で鳴くのです。
 その声に、幾夜、目を覚ましてしまったことでしょう。
 須磨の関守は。

<解説>

 第七十八番。

 関守は時を告げる鶏の声で目覚めるもの。
 千鳥の鳴く声で目覚める須磨とは、
 どれほどの淋しい地であることか。

 関守の孤独と共に、
 己の身の孤独がこの歌からうかがうことができます。





 忘れること。
 覚えていること。
 忘れてはならないこと。
 覚えてはいられないこと。

 懐かしい人からの便りは、
 唐突に訪れて、この胸に波風を立てます。

 今となっては昔の、
 けれども、決して忘れることのできない記憶が
 次々に浮かんでは消えて、
 束の間、私を数年前に戻します。

 けれども、時は流れる。

 私は数年前の私ではありません。
 そうであるようにまた、
 彼の人も、数年前のままではあり得ません

 時の流れは非情でもあり、
 また、誰にとっても平等であります。
 願わくば、健やかであって欲しいと、
 そう願ってやみません。





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