みかきもり  衛士のたく火の  夜はもえ 

  昼は消えつつ  物をこそ思へ

                     大中臣能宣朝臣  


<現代語訳>

 皇居の門を守る衛士の焚く篝火は
 夜は赤々と燃え、昼は消えています。

 私の中の炎も夜は燃え上がり、
 昼は魂も消え入らんばかりに思い悩んでいるのです。

 この炎の名は、あなたへの恋。

<解説>

 第四十九番。
 恋の二面性を、篝火に託して読んでいます。

 夜はそれこそ、闇を払うかのような炎を燃やす篝火も
 昼間は火の消えた用具がぽつん、と。
 その対照を、恋心と掛けています。

 相手を想って燃え上がらんばかりの恋慕の情と
 それに反して生まれてくる不安。
 夜の恋心は激しければ激しいほど苦しく、
 どうにもならない恋の悩みは昼すら襲ってきます。

 巧いものです。

 詠み人、能宣氏は伊勢神宮の祭主だったそうですが、
 この神主、裏がありそう(笑)




 人の気持ちは目に見えず、
 どんなにわかっているつもりになろうとも
 結局、口に出さなければ、何も伝わらない。

 お互い、違う人間である、という事実を
 時として、忘れてしまうことがある。

 どんなに近くて感じられても、別の人間。
 言わなければ伝わらないこともある。

 精神は、肉体ほど単純なものではないようです。  





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