No title

…満身創痍だった。

全身から流れ出す血は、勢いを弱めつつも決して止まろうとはしない。
壁にもたれる、と同時に、ずるずると腰が落ちる。
背を付いた壁には真っ赤な跡が残った。

吸い込まれそうな床の冷たさが心地良い。
ごとり、と、パイソンが床に置かれる。
自然、右手が胸元から煙草を抜き出し、それを銜えて火を点けていた。

「…ドジっちまったなぁ…」
紫煙と共に、声が空気に溶けていく。
濃密な血と硝煙の臭いが少しだけ攪拌される。

見開いた彼の瞳から、次第に光が失われつつある。
ぼんやりと、部屋の光景が薄れてゆく。

が、その不明瞭な視界が、ひとつの、そして唯一の像を結んでいく。
「…キャル…?」

幸せそうな少女の笑顔だった。
彼にだけ見せる、少しはにかんだような、困ったような笑み。
それでいてまっすぐに玲二を見つめるその視線に、自然、彼の頬も緩む。

「ゴメンな…。約束、破っちまった。」

瞼の裏に浮かぶ笑顔を抱きしめつつ、こんな終わりもありかな、と、彼は思う。

「…幸せに、なれ…誰よりも。キャル…。」

最後にそう考えて、玲二は意識を手放した。
最上の笑みを添えて。

…愛して、いるよ…キャル…。



「…遅いね、玲二。せっかく今日はごちそうなのに。」

300マイル程離れた部屋で、少女は猫に話しかける。

テーブルの上には大きめのケーキとシャンパン、所狭しと置かれた皿には少女の手からなる、数々の料理が綺麗に並べられていた。
ケーキには“HappyBirthday Reiji”の文字。

「れーじ、まだかなぁ…」


Fin.

2004.09.18


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